2012年4月11日

サイを投げた先には?

 

新年度が始まって1週間が過ぎました(この文章は4月8日に書いています)。大学も来週から前期の授業が始まります。いつもなら桜が満開の時期ですが今年の寒さのせいかここ東広島の桜はまだつぼみのままです。見ごろは次の週末あたりでしょうか。

昨年度の後半は素粒子の話題が一般のニュースや紙面を賑わすことが多かったですね。超光速ニュートリノのニュースは実験の間違いと言うことで結着しそうですが,我々も驚くほど多く人々の関心を集めたできごとでした。私の所属する大学でもこの話題についてのセミナーを行ないましたが、100人収容の講義室があふれるほどの盛況でした。12月にはセルンのLHC実験からヒッグス粒子[1]発見の兆候が見られたというニュースが入ってきました。難しい話にも関わらず、ニュースや新聞で大きく取り上げられました。

ヒッグス粒子のニュースは、国際リニアコライダー(ILC)にも大きな関わりがあります。もしLHC で見られた予兆が本当だと、ILCによるヒッグス粒子の研究が素粒子物理学にとって非常に重要になります。先ごろ発表された高エネルギー物理学研究者会議の将来計画検討小委員会の答申にも「LHCにおいて1TeV程度以下にヒッグスなどの新粒子の存在が確認された場合、日本が主導して電子・陽電子リニアコライダーの早期実現を目指す。特に新粒子が軽い場合、低い衝突エネルギーでの実験を早急に実現すべきである。(以下省略)」と記載されています。もちろん真実は神のみぞ知るですが、今年の終わり頃にはもっとはっきりしたことが分かっていると思います。鬼が笑うようですが,来年の今頃どんなコラムを書いているか楽しみです。

物理だけではありません。先日発行されたILC 通信に掲載された高エネルギー加速器研究機構鈴木機構長のインタビュー「サイは投げられた ‐2012 年のリニアコライダー研究推進‐」にもあるように,今年はILCにとって技術開発の面からも特別な年になります。来年の今頃は、ILC 実現に向けた新たな動きが始まっていることでしょう。

さて、4月は企業にとっても大学・研究機関にとっても新しい一年の始まりです。多くの新入社員や新入生を向かえフレッシュな雰囲気に包まれている方々も多いと思います。KEKでも鈴木機構長の新たな任期(3期目)が始まりました。LC 推進室も新室長を向かえこの重要な1年に立ち向かいます。私どもAAA 広報部会にも変化がありました。設立以来広報部会長を勤めていたMが転勤のため,新たな部会長を向かえました。副部長も1名交代しました。今年度から心機一転,新たな体制で加速器科学の普及と理解推進に邁進してまいります。今後も宜しくお願いいたします。

 

高橋 徹

広島大学

 

脚注

[1]物質に質量を与える役目をする粒子。著名な物理学者レーダーマンの著書「神がつくった究極の素粒子(原題:The God Particle: If the Universe Is the Answer, What Is the Question?)」から神の粒子と呼ばれることもある。